マルタ探索記５

第５章　バス停

　タクシーは走り出すと、港から続く坂道を上がっていった。そして右に曲がったかと思うと、すぐそこがホテルだった。この間、わずか２～３分ほど。

　タクシーから降り、リムジャーホテルのロビーに入る。ロビーはそう広くはないものの、４階まで吹き抜けになっているので閉塞感はない。
　名前を告げてチェックインする。ｅメールで予約した時に海側の部屋は満室との事だったので、陸側の一番安いファミリー・スイート（リムジャーはほとんどの部屋がスイートタイプ）で予約していたが、海側が諦めきれず、ダメもとでフロントでもう１度海側の部屋が空いていないかどうか聞いてみた。やっぱり空いてないとの事。
　ボーイに連れられて、別館の３階へ。

　部屋に入ると・・・スイートだけあって広い。
　まず入った所はリビングで、ソファー＆肘掛け椅子＆テーブルのリビングセットに加え、ダイニングテーブル＆椅子４脚、テレビ、冷蔵庫が備えられていた。そして広いバスタブ＆洗面所があり、一番奥がツインベッドの寝室。その外にはベランダが付いていた。・・・一人で使うにはあまりにも広大すぎる。これで１泊Ｌｍ２０（５０００円）とは、安い。
　寝室からベランダに出ると、プールを挟んで正面に本館の建物。しかし本館の方が少し低いため、その建物の向こうに今さっきフェリーでやってきたコミノ海峡が見える。そして右に目を移せば、グレンイーグルスも含めた港の半分ほども眺めることもできた。
　

　時間はまだ４時だったので、ゴゾの中心にあるヴィクトリアの町まで行ってみることにした。ガイドブックによるとヴィクトリアに幾つかある博物館の閉館時間は１８時半になっていたので、１つか２つは、博物館を見て廻ることができるだろう。

　出かける支度をして、ホテルのフロントでヴィクトリア行きのバスの時間を尋ねた。
　「ホテルの正面に４時半」
　・・・ホテルの正面にバス停なんてあったか？
　ホテルの玄関先に出てみるが、バス停なんて無い。

　バス停を探してホテルの私道から公道に出る。港方向へ少し向かったところに「BUS STOP」の青い標識を見つけた。しかしフロントの姉さんは「正面」と言ったが、ここはホテルの近くではあっても、正面ではないような気がする。もしかして、標識が無いだけで、このバス停の次にホテルの玄関先にも停まるとか？
　とりあえず、どうせこの道を通らないとホテルには行けないのだから、ここで待っていればそのうちバスは来るだろうと、「BUS STOP」の標識の下でバスがやって来るのを待った。

　４時３０分になった・・・来ない、３５分・・・来ない、４０分・・・やっとバスが１台やって来た。バスを止めるべく、手を振りながらぴょんぴょん飛び跳ねる。しかし、系統番号がガイドブックに乗っている路線番号と違っていた。

「ヴィクトリア行きですか？」
「違うよ。シャーラ行きだよ」
違う方面行きのバスだった。バスはそのまま行ってしまった。

　またバスを待つ。４時５０分・・・まだ来ない。始発はここから５分とかからないイムジャー港だ。それなのに２０分も遅れているのは、いくらなんでもおかしくないか！？
　通行人に聞こうにも、随分前におばあさんが１人通った他は誰も通らない。車の往来は結構あるのだが・・・。

　もう一度地図を確認する。持っている地図はゴゾ島全体の地図だ。イムジャーの港から出ている道は、ヴィクトリアまでの道が１本、そしてアーラやナドゥールへ向かう道が１本・・・もしや今いる道はヴィクトリアへ行く道だと思いこんでいたが、そうでは無く、アーラ方面へ向かう道ではないか？しかしフロントの姉さんは「ホテルの正面から」と言っていたのだから、この道で合っているはず。
　その時ふっと気がついた。・・・もしや路線バスでなく、ホテルのプライベートバスの出発時間が４時半だったとか？そしてそれがホテルの玄関前から出るとか？

イムジャーの地図

　今更気がついても、すでに５時前、もう遅い。正しいヴィクトリアへの道を目指し、港の方へ坂道を駆け下りて行った。
　それにしてもさっきのバスの運転手、バス停間違ってるんだったら教えてくれてもいいものを～。
　坂道を少し駆け下りると、道沿いに建ち並んでいる家並が途切れ、港を一望の下に見渡せた。そして港からの道が途中で二股に分かれ、今いる道とは逆方向へもう１本道が延びているのが見えた。あっちがヴィクトリア行きの道だなあ、きっと。港にバスが１台停まっているのも見えたので、港までダッシュ！

　５分ほどで港に到着。停まっていたバスに乗り込む。バスの番号は２５番、運転手は何処かに行ってるようで、女性が１人乗っているだけだった。その女性にヴィクトリア行きかどうか尋ねると、「そうよ」との事。

　バスはまだまだ出発しそうになかったので、外にある時刻表を見にいった。時刻表にはフェリーの到着時間と、それに接続するバスの出発時間が書かれていた。次のフェリーの到着時間が５時１５分、バスの出発時間は５時３０分・・・ヴィクトリアに着くのはいったい何分後になるのだろう？

　バスの運転手が帰ってきたので、ヴィクトリアまで何分かかるか聞いてみた。
「２時間！」
いくら何でも、淡路島の半分の面積しかない国で、そんなに時間がかかるわけないでしょ！
「冗談、１０分」

バスの料金１５Ｃを払い、切符をもらう。

「今日中にイムジャーまで戻ってくるのか？」
「うん」
「ヴィクトリアからのバスは６時半で終わりだ。乗り遅れたら歩けよ。」
そんなに終バス、早いの？

　５時２０分頃にフェリーが到着し、フェリーから降りた人達が次々とバス乗り込んできて、ほぼ満席となった。
定刻の５時３０分にバスは発車。

　バスは港から続く坂を上って行く。そして私がアホみたいに待っていたホテルのある方の道では無く、もう１本の道を上がっていく。そんなに急な坂のようには思えないのだが、馬力が無いのか、上る速度は恐ろしく遅かった。歩くのと大して変わらないスピードしか出ていない！
　バスがやっと坂を上りきると、そこからはなだらかな丘陵が続いており、その丘陵のほとんどは畑になっていた。畑の青々とした作物の為、ゴゾ島は、枯れたような低木が生えているぐらいの荒れ地が続くマルタ島より、緑が多いような気がする。畑が続くその先には、青い海が見える。

　バスは停車することなく、小さな村を幾つか通過していった。村の家々は、すべてマルタ特有の蜂蜜色の石を使って造られていた。マルタの建物の特徴である２階に張り出したベランダのある家が多く、玄関先には、日本のとそっくりな簾が下げられていた。

　やがてバスの前方に、ぐっと高くそびえる城塞が見えてきた。目指すヴィクトリアにあるシタデル（城塞）だ。バスは道の両側に店が建ち並ぶ街へと入って行った。そして左折すると、まもなくヴィクトリアのバスターミナルへと到着した。

　バスを降りしなに、バスの運転手から声をかけられた。
「６時半に乗り遅れたら歩けよ～」

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第５章 バス停

第５章　バス停